思いつめるほどのことはない。けれど、「なんとなくいやだな」と感じることがあります。「なんとなく」なので、普段は気にも留めないのですが、先日、久しぶりにその「なんとなく」に遭遇しました。会議の席です。特に5人という少人数での会議だったのでなおのこと、発言者がなぜか私の顔だけ見ない。いや、私の勘違いかもしれない。しかし、1時間の会議が終わるまで一度も私に視線が届くことはありませんでした。結構、傷つきます。

仕事で傷つくことはこんなちょっとしたことから、椅子を外されるくらい大きなことまでいろいろあります。しかし、せっかく働くなら傷つかずに働きたい。私のモットーは「仕事を通して幸せになる人であふれる社会にする」ことです。大きく出ています。ならば、小さな傷も大きな傷もどうしたら作らずに済むのか。その救世主がアサーションです。

「なんで私だけ無視するわけ?」これでは相手に「あんた、自意識過剰だよ」と言わせてしまいます。自分からさらに関係性を壊しに行くようなもの。アグレッシブな典型的アプローチです。ならば、面倒くさいことはしたくない。自分だけ我慢して、相手の無視をこちらも無視すればいいとばかり、だんまりを決め込む。ノンアサーティブ、これはこれで釈然としないまま幸せな働き方からは、程遠いです。
そこで、アサーティブが登場。「先輩、会議での発表、ありがとうございます。一人一人にしっかり視線を送ってのプレゼン、説得力があるなあと思いました。実は、私にもいつ視線が届くかなとドキドキしながら待っていたんですが、最後まで届かなくて、ちょっとへこみました。私に何かあるのかなあと心配になっていたんです。」事実を伝えて気持ちを伝える。『え?そうだったの?ごめん、気づかなかったよ』と、案外、先輩の心には特別な意図などなく、私の思い過ごしだったとわかります。たとえそうでなくても、大人の対話として会話が続き、それ以上の関係悪化は防げます。そして最後には、こちらの期待も伝えてしまう。「次回、待っています!」

 人との関係の中で、私たちはしばしば「伝えること」と「我慢すること」の間で揺れ動ききます。
「言ったら角が立つかな」「自分が我慢すればいいか」、そんな小さな遠慮の積み重ねが、気づけば関係の溝を広げてしまう。
アサーションとは、「自分も相手も大切にしながら、率直に伝える」ためのスキルです。相手を攻撃するでもなく、自分を押し殺すでもなく、誠実に「私」を表現する。
会議中の私は、先輩から視線を送ってもらえず、まるで存在しないような扱いを受けたようで「どうして私だけ?」という思いを膨らませていました。そこで視線が届かなかったという事実を伝え、その時「へこんだ」という気持ちを伝えました。その後、「次は待っています」と自分の要望もしっかり伝えることを忘れません。
このアサーティブな伝え方は、相手を責めずに自分の気持ちを誠実に表現する対話となり、対立することなく信頼関係を育てます。
そして、ここにこそコーチングとの共通点があります。
コーチングもまた、相手を操作するのではなく、「対話を通じて相手の中にある答えを引き出す」関わりです。そのためには、自分の思いを正直に伝える勇気(アサーション)と、相手の思いを尊重して聴く姿勢(コーチング)の両方が必要です。 

アサーションは「自分を語る力」 

コーチングは「相手に語ってもらう力」

この二つが合わさると、対話は一方通行ではなく、相互理解の場に変わります。言葉を交わすたびに、相手との関係が少しずつしなやかになり、信頼が育っていく。
それが、私がコーチングを通して一番大切にしていることです。
「伝える」と「聴く」の両輪がかみ合ったとき、人は本当に動き出せます。
アサーションは、その最初の一歩を支える「伝える勇気」だと私は思っています。